2023.04.11

レポート

【トークセッションレポート】ドイツと日本の視点から「あいだ」を考える -Dazwischen-

2023年2月16日(木)から4日間にわたり開催された「DESIGN WEEK KYOTO 2023 in 丹波・京都・山城」。スタート前夜となるこの日、KRP GOCONCにてトークセッションが行われました。

今回のテーマは、さまざまな分野に存在する「あいだ」です。外国と日本、デジタルとアナログ、自然と資本主義など、何かと二項対立で捉えられがちな昨今。それぞれの「あいだ」についてポジティブに考えることで、新たな文化が生まれるのではという発想から今回のテーマが誕生しました。

登壇者は建築家ハネス・マイヤー氏、ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都 館長のエンツィオ・ヴェッツェル氏、京都・龍岸寺の池口龍法住職です。

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異なるジャンルで活躍するお三方とともに、さまざまな分野の「あいだ」について語り合いました。

日本のお寺文化は、生き続けるのか

北林:「DESIGN WEEK KYOTO(以下、DWK)」代表の北林と申します。まずお話いただくのは、京都・龍岸寺の池口 龍法住職です。今回のDWKには、仏具系ポップユニット「佛佛部(ぶつぶつぶ)」のプロデューサーとして参加されています。

池口:皆さん、こんばんは。龍岸寺住職の池口と申します。「佛佛部」は仏師をはじめ、塗師、箔押師、宮大工、おりん職人や錺金具職人など、仏具文化を継承する職人が中心になった仏具系ポップユニットです。仏壇が徐々に縁遠い存在となる昨今、時代にふさわしい拝み方、祈り方を提案しようとさまざまな活動に取り組んでいます。

佛佛部

「佛佛部」

私としてはごく当たり前のことを当たり前にやっているつもりですが、外から見ると龍岸寺はもっとも「お寺らしくないお寺」なのかもしれません。

例えば、龍岸寺には仏教文化を伝えるシンボルとしてメイドが存在します。テクノロジーを活用した「ドローン仏」は、極楽浄土からやってくる阿弥陀如来をわかりやすく表現したものです。また、本堂はイルミネーションできらきらと輝いています。

人によっては、これらの活動に疑問を持たれることもあるのかもしれません。しかし、多くの宗教儀礼は太陽や月のような光を拝み、そこに希望を見出す感情から生まれてきました。

例えば、本日2月15日はお釈迦様が涅槃に入られた日にあたります。『涅槃経』という経典によると、満月が輝く15日がお釈迦様の最後にふさわしいからという理由です。また、彼岸には太陽が真西に沈み、人々は夕陽の向こうの先祖を思いながら祈りを捧げます。キリスト教では、昼間がもっとも短い冬至を起点にキリストの誕生が祝われてきたという説があります。

伝統を守るうえで大切なのは、形をなぞることではなくその時々の人々の感情を受け止め表現することです。そのためにテクノロジーやポップカルチャーのような現代ツールを使うことは、必然であるとともに、まったく些細な要素だと私は考えています。

今回のテーマである「あいだ」――私にとっては過去と現在の「あいだ」というのが最大のテーマですが――これを理解するには、4つのステージがあると考えます。一つ目は、どんなに伝統があるものでも形あるものは変化せざるを得ないということです。仏教の諸行無常に通ずる捉え方といえます。

そのうえで、過去と対話しながら本質を見極める必要があります。「あいだ」を考えるうえでの二つ目にあたるステージです。人間の心の奥底には、歴史を重ねても変わらない何かが必ず流れています。

私は2500年前の経典を読むのですが、過去を知り、そこから現代を見ることによって過去から現代へとつながるパイプに気付くことができます。三つ目のステージにあたる、現代文化に命を吹き込もうという意欲が湧いてくるのです。

新しい文化やテクノロジーが、良く用いられるか、悪用されるかはわかりません。より素晴らしいものとして定着させるには、伝統によって命を吹き込む必要があります。それぞれが融合することによって、伝統がさらに輝くという最終ステージに到達するのです。

私たちのドローン仏は、時に奇抜なものとして取り上げられます。一方で朝日新聞の記者には、戦争にドローンが用いられる中、ドローン仏こそがドローンの平和利用にあたると評価されました。

ドローン仏は、最新テクノロジーの正しい活用法だと自信を持ってお伝えできます。私たちは今後も批判を気にするのではなく、現代に希望を与えるためテクノロジーやカルチャーを駆使しながら時代に沿った寺の形を探し求めていきます。

北林:龍岸寺では、2500年前の歴史や仏教の本質だけでなく、最新のテクノロジーに触れることができる。寺そのものが「あいだ」のような存在を担っていますよね。今回のDWKで実際に訪問していただければ、そのあたりを体感できるのではと思います。ありがとうございます。

宮大工の伝統をロボット技術で再興

北林:続いて、建築家ハネス・マイヤーさんにお話をうかがいます。ハネスさんはスイスに拠点を置き、世界的に活躍されている建築家です。国際芸術祭「あいち2022」の関連イベントでは、チューリッヒ工科大学で制作した木造骨組みの建築物(※1)を出展されました。日本の宮大工の伝統をスイスのデザインとデジタル技術で再興させた作品は、既存の建築物に代わる持続可能な建物として注目されています。

マイヤー:皆さん、こんばんは。本日この場で池口さんと共にお話させてもらえることを非常に嬉しく思っています。というのも、今回最初にご紹介させていただくのが、大徳寺黄梅院で開催された展覧会「TEMPLE / MATERIAL」で展示した作品だからです。

Photo:Hannes Mayer

展示作品では、建築物の中から外へ、自然の中から建築物へと移行していく空間を表現しました。建築は、目に見えない関係性を表現できる手法のひとつと考えます。社会的な関係性、自然との関係性を伝えられる存在です。

Photo:Ayako Suzuki

北林さんにご紹介いただいた「あいち2022」の作品は、私がチューリッヒ工科大学でディレクションした木造建築プロジェクト「Collaborative Constructions/Kizuki-au 築き合う(※2)」で作り上げたものです。イベントでは、常滑市内の会場に3階建ての木造建築を展示しました。

このプロジェクトにおける「あいだ」は、日本の伝統と現代空間の狭間にあるといえます。作品では日本の宮大工の手法を参考に、ネジなどの金属部品を使用しない建物をロボット工学で再興しました。

京都の宮大工のような手法は、15世紀頃のドイツでも用いられていました。非常に美しいディテールが特徴的ですが、いずれも美ではなく機能性を追求したものです。

ところが、こうした手法は産業化と共に失われつつあります。私たちが取り組んでいるのは、過去の技術をアップデートし、デジタル技術を用いてこの世に蘇らせるというプロジェクトです。

作品は何千もの小さなパーツを用いた5つのモジュールで構成されています。組み立てはロボットと人の手によって行われました。

ロボット同士がぶつかることなく、次々とパーツを組み立てる様子は魔法のように見えるかもしれません。宮大工のように緻密な動きは、事前にコンピュータに組み込まれたものです。

ロボットは高い知能を有していると思われがちですが、実際には人が必要事項を教えてあげなくてはいけません。先ほど池口さんが隠れた本質を見出すとおっしゃっていたように、過去の類まれな技術を探しだしコンピュータにインストールしていくのです。

PHOTO(C)JUMPEI SUZUKI

作品の中に入ると、木材の宇宙が広がっていることがわかります。この美しさは、あくまでも構造上必要なパーツを組み立てた結果生まれたものです。

ヨーロッパの木造軸組工法と日本の宮大工の手法。ヨーロッパのエンジニアと日本の大工。それぞれの「あいだ」に着目することで、お互いの文化を尊重し、参照し合いながら現代の文化を作り上げることができました。

今後はハイアートである宮大工の技術と、一般向けのハウスメーカーの技術が結びつく将来を期待しています。ゆくゆくは池口さんのお寺をこの手法で建築できればと構想は膨らみます。

池口:ハネスさんが建築される寺、どんなものだろうとワクワクします。日本の寺はデザイン性が高いものも多いですが、それらもロボットが再現できる時代がくるのでしょうか?

マイヤー:京都・匠弘堂の宮大工さんは、常滑市の展示物の構造はまだまだシンプルだといいます。日本の宮大工の技術は、将来的にもロボットが追い付けないレベルなのかもしれません。

そのうえで、私は機械やデジタルは人を凌駕するものでなく、共に歩む存在だと考えます。将来的には、人間の意義や存在を象徴する部分はあくまでも人が担当し、その他をロボットが作るという形が生まれるのではないでしょうか。

池口:ありがとうございます。匠弘堂さんと共に新しい寺を建築していたいただければ、これほど楽しいことはないと思います。

※1 https://hannesmayer.eu/

※2 https://aichi.vitality.swiss/ja

ここはどこだ?静原の「あいだ」が有する可能性

北林:続いて、同じく建築家でもあるエンツィオ・ヴェッツェルさんにお話いただきます。エンツィオさんは、日本とドイツの文化交流に取り組むゲーテ・インスティトゥート大阪・京都の館長を務める方です。今回は、京都市北部の集落、静原におけるプロジェクトの様子をご紹介いただきます。

ヴェッツェル:皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。ここで私が皆さんに投げかけたいのは「ここはどこだ?」という問いです。私はお互いが離れた場所にいたとしても、その「あいだ」で繋がっていると感じることが必要だと考えます。

池口さんがお話しくださった仏陀やキリストに対し、私たちは有限の存在です。人類のアイディアや祈りが目に見える形で表現される建築物や仏像は、私たちにとって重要な存在といえるでしょう。

先日、私はハネス・マイヤーさんと同僚の西村さんと共に京都の静原へ足を運びました。静原は京都市でも豊かな自然が残る地域です。左京区であるにも関わらず、静原にいざ身を置くと非常に遠い場所にやってきたような感覚に陥ります。

この日は静原を拠点に活躍される建築家、森田一弥さんに迎えていただきました。森田さんは都市部から静原へ移り住み、建築を通して外と繋がる人物です。

また、静原では多くの大工が市街地へと働きに出ています。主な木材は国際マーケットから調達されるものです。

マーケットを視野にいれると、何が遠くて何が近いのかと距離に対する概念がゆらぎます。森田さんとお話しながら、古いものと新しいものの狭間にある「あいだ」について考えを巡らせました。

地域にある静原神社は、スピリチュアルな世界と現実世界の「あいだ」に触れられる場所です。池口さんからお寺のお話がありましたが、ヨーロッパにもキリスト教を現代へどう繋げていくのかという課題があります。そのため、先ほどの池口さんのお話は非常に興味深く、私の心に響くものがありました。

静原の課題は、本日のテーマ「あいだ」と深く関係しています。例えば、現在は使われていないJAの建物は、古いとも新しいとも表現できない、まさに「あいだ」に存在する建築物です。

私が初めて静原を訪れたときはなんとも形容しがたい建物だと感じましたが、現在は静原の可能性をひめた場所だと考えています。現代アートや手仕事を組み合わせれば、人が集う新たな空間となり得るでしょう。

私の住まいでもある鴨川と静原、そしてドイツと日本。これらの距離感を繋いでいくためには、池口さんや北林さん、本日出会った皆さんとのパートナーシップが必要です。でなければ、プログラムは月とアームストロングのように遠くかけ離れた関係になってしまいます。プログラムにどのように命を吹き込んでいくか。それこそが今後重要な課題となっていくでしょう。

北林:双方の対話、ディスカッションそのものが「あいだ」であり、新しい文化を生み出す力となり得るのではと感じたのですが、いかがでしょうか?

ヴェッツェル:未来のコミュニティは、当然ながらそこで暮らす人々と共に作る必要があります。例えば、JAの建物が位置するのは、ヨーロッパなら教会が建つコミュニティの中心となり得る場所です。そういった場所で今後どのようなサービスを展開できるのか。これは地元の人々と話し合いながら考える必要があるでしょう。

北林:静原は「あいだ」そのものという印象です。そういった意味でも、静原は新しいことにチャレンジしやすい場所なのではないでしょうか。20世紀の日本の象徴ともいえるJAの跡地で、ドイツと日本の視点からどんな文化が生まれるのか。非常に興味深いお話でした。

「あいだ」が生み出す新たな文化

北林:今回「あいだ」をテーマにお話いただきましたが、お三方いかがでしたか?

池口:ドローン仏は仏師の三浦さんの作品なのですが、三浦さんは埼玉出身、私は兵庫出身なんですよね。外から来た人が京都の寺で新しいことに着手している。そういった意味でも「あいだ」の存在が未来を変えていくのではと感じました。

北原:私は奈良出身、そして今回集まっていただいたのはドイツの方々。京都の中心で京都出身ではない人間が京都について語っている。これこそが、京都の伝統を体現した形といえるのかもしれません。ハネスさん、ヴェッツェルさんはいかがですか?

マイヤー:私は「あいだ」と調和との関係性を考えました。私たちは「あいだ」について思考を巡らせながら建築という固定物を作り上げます。建築中もその後も「あいだ」は移行し続けている。例えゴールにたどり着くことがないとしても、そこにはハーモニーが存在しているのではないでしょうか。「あいだ」にいること、考えを巡らせることそのものが調和といえるかもしれない。今日の話を聞きながら実感しました。

ヴェッツェル:今日の体験は自分の視野を広げることに繋がりました。DWKの取り組みを通し自分も成長していければと考えています。会場の皆さん、どうもありがとうございました。帰宅されたら「ここはどこだ?」「自分にとっての寺はどこだ?」と自分自身に問いかけてもらえればと思います。

北林:今回の開催で8回目となるDWK。皆さんのお話を伺いながら、ここまで続けてきてよかったとつくづく感じた次第です。本日は皆さん、どうもありがとうございました。

レポート:永田 志帆