REPORTS

2021.03.30

CRAFTTHON 2020 レポート

  • CRAFTTHON(クラフトソン) とは?

日本各地から集まった多種多様なクリエイターらがアイデアを出し合い、京都の工芸と融合し新しく画期的なサービスやプロダクトを開発していくプロジェクト、それが「クラフト」×「ハッカソン」=「クラフトソン」です。

 

  • CRAFTTHON 2020のテーマ:「バグ!」

CRAFTTHON 2020テーマは「バグ!」。コンピューターやテレビゲームなどでよく使われる「バグ」という言葉は、「プログラム上の不具合 ・誤り・欠陥」を指します。社会を発展させてきた新しい価値観、文化や技術も様々な「バグ」を通じて生まれてきたことを考えると、今起きているコロナ禍もあるいはそのひとつなのかもしれません。

京都の「クラフト」と進化をもたらす「バグ」を掛け合わせたとき、はたしてどんな画期的なアイデアが生まれるのか?新しい時代に求められる未来の価値を生むのは伝統ではないか?という期待と挑戦から CRAFTTHON 2020が始まりました。

 

  • CRAFTTHON2020 の流れ

2020年7月27日〜8月17日

参加者募集:全国から多種多様なクリエイターを募集。

 

2020年8月20日:チームビルディング【オンライン】

全国から集まった28名が自己紹介等を実施し、7チームに分かれてチームを形成。ゲストスピーカーから、工芸についてのインプット。

 

2020年8月29&30日:アイディエーション・ワークショップ【オンライン(配信拠点:京都リサーチパーク)】

二日間に渡るワークショップを通して、工芸と結びついた新しいサービスやプロダクトのアイデアを創出する。


※審査の結果、選抜された3チーム

1)Team AIAI
→ 「mederu」…工芸を取り巻く人々が自由に交流できる

オンラインサロン

2)Team Spinkle
→ 「週末職人」…工芸に日常性を組み合わせ、新しい工芸とのつながり方を提案

3)Team CHAOSDIPITY
→ 「ConCra」…モノのユーザーと工芸家が「共に(con) 作る(craft)」を通してアップサイクルするサービス

※以降、2月の最終プレゼンテーションまで月1−2回のペースでメンター、ディレクターとのメンタリングセッションを実施【オンライン】

 

2020年10月26日:中間発表【オンライン】

選抜された3チームの中間発表:メンター4名と共にビジネスモデルをブラッシュアップし、マネタイズやサービスの仕組み等についてディスカッション。以降、テストマーケティング等を開始。

 

2021年2月28日:最終プレゼンテーション【オンライン(配信会場:FabCafe Kyoto)】

8月のワークショップで考えられたサービスやプロダクトを、国内外の投資家・支援者等に発表。

 

・3月〜

事業の立ち上げへ:支援者等からのアドバイスや協力内容を交え、いよいよ世間に工芸を取り入れた新しいサービスをスタートし、工芸のアップデートに向けて本格的に動き出す。

 

  • アイディエーションを経て選抜された3つのビジネスモデル(※2021年2月末時点)

1)「mederu」…工芸を取り巻く人々が自由に交流できるオンラインサロン

工芸職人らには、クオリティの高い作品を生み出す知識や技術に加えて、それらをPRや販売する能力も求められる。しかし、作品作りの傍らのPRや販売は容易ではなく、工芸職人らの廃業につながりかねない。更に、コロナ禍による対面機会の喪失で、状況はさらに厳しくなる事が予想される。

その状況を打開すべく考案したのが、工芸を取り巻く人々が自由に交流できるオンラインサロン「mederu」。「mederu」はバーチャルな商店街のようなイメージで、作家、工芸の関係者、工芸に興味のある一般の方の参加が可能。「mederu」内で対話を楽しむことができ、作家は作品の販売はもちろん、交流を通じてPR方法等の気づきを得ることができる。「mederu」を通じた工芸関係者のコミュニティを活用し、工芸関連の様々なサービスのプラットフォーマーとなることを目指したビジネスモデル。

 

 

2)「週末工芸」…工芸に日常性を組み合わせ、新しい工芸とのつながり方を提案

「工芸」に「日常性」を組み合わせ、新しい工芸とのつながりかたを提案する「週末工芸」。「工芸の未来」をテーマに、工芸の課題を知り、その解決に関われる仕組み作りを目的としている。「ものづくりをしたい人(担い手)」と「ものづくりをしている人(作り手)」をつなげ、特に自分の時間を工芸の未来に役立てたいという人に対しては、ただ体験するだけのものづくりではなく、自分の生活を豊かにしながら工芸分野の課題解決に関わっていくカリキュラムを提供する。

作り手に対しては、ヒアリングを通して課題を明確にし、解決に繋がる企画を作り上げる。担い手同士や、作り手との繋がりを作り、継続的なものづくりを繰り返すことによって「体験以上、弟子入り未満」のユーザーを増やし、工芸全体の社会課題を解決していく企画。

 

 

 

3)「ConCra」(コンクラ)…モノのユーザーと工芸家が「共に(con) 作る(craft)」を通してアップサイクルするサービス

そのままの形では使えなくなったモノが、工芸の力で別の形に生まれ変わり(=ReCraft)、さらに時代を超えて使われ続けることを目指すサービス。モノをアップサイクルしたいユーザーは、コミュニティ型のオンラインサービスに登録。ここにはキューザー(アップサイクルしたモノを持ち込むユーザー)/ナコーダー(様々な工芸の知識を持つ仲立ち役)/工芸家という3タイプのプレイヤーが参加し、「共創」のプロセスが始まる。

運営するConCraは、創作プロセスをSNSなど複数のメディアで発信し、工芸×アップサイクル(=ReCraft)の面白さや価値を多くの人に伝える。また、ひとつのプロジェクトから複数個のReCraft品が生まれる場合、キューザー自身が買い取る分以外の余剰のReCraft品はECサイトで販売する。依頼者でなくてもReCraft品を気軽に購入できることで、より多くのユーザーのReCraftへの興味を促すコミュニティ型サービスを目指す。

 

 

  • 審査員(メンター)

・中村 多伽 氏(株式会社taliki 代表取締役CEO)

・綾 利洋 氏(o-lab inc. 代表取締役・クリエイティブディレクター)

・田房 夏波 氏(株式会社 和える 西日本事業責任者)

 

  • アドバイザー

・竹浪 祐介 氏(地方独立行政法人京都市産業技術研究所 デザインチーム主席研究員)

 

■ 最終プレゼンテーションを終えて、メンター・アドバイザーからのコメント

・中村 多伽 氏(株式会社taliki 代表取締役CEO)

 様々なステークホルダーが混在しプランを考えている点が「クラフトソン2020」の特徴的な点であり、おもしろく感じた。職人の当事者としての意見、工芸ファンの「こんなサービスがあったらいいな」という意見、また残していく立場として構造を変えようとする意見。ビジネス構想をサービス化するためには、全ての声が必要であり、多角的な視点から練られたそれぞれのビジネスプランは、伝統工芸に詳しくない私にも面白く、ぜひ使ってみたいと感じさせるものだった。参加者の皆さんの熱意と、楽しみながら考え尽くす姿勢にも大変感銘を受けた。ぜひこの取り組みが続き、世界を少しずつ変えるようなサービスが生まれることを願っている。

 

・綾 利洋 氏(o-lab inc. 代表取締役・クリエイティブディレクター)

 時に工芸に携わるもののそれを専門としていない立場から、工芸と他領域との間に境界線を引かない視点で関わらせてもらった。各チームの事業プランが毎月のセッションを経るごとにダイナミックに変化していく過程はとても有機的かつ刺激的で、大変勉強になった。さらには、これだけの成果が、それぞれ本業を持つチームメンバーにより、半年ほどの短い期間で、ほぼオンラインのみで達成されたことは驚異的であり、アフターコロナの働き方やプロジェクトの進め方そのものにも大きな示唆を与えているように感じた。最終プレゼンテーションに残った3つの事業プランは、いずれも社会に存在して欲しいと願うものばかりで、今後、投資家や協業パートナーとさらにブラッシュアップさせ、変化を重ねていくことで、近い将来社会にとって「当たり前」になるようなビジネスに成長することを期待している。

 

・田房 夏波 氏(株式会社 和える 西日本事業責任者)

 これまで伝統産業に携わってきた経験から、この業界の未来を切り拓くためには、全く異なる分野の方々にも広く関わってもらう必要があると強く感じてきた。今回の「クラフトソン2020」は、まさにそのような取り組みであったと思う。ITやデザイン、マーケティング、学生など幅広いバックグラウンドのメンバーが、職人とも連携し、事業を組み立てていく様子や純粋な志に触れ、未来は明るいと強く感じられた。コロナ禍において、私たちの働き方は大きく変わろうとしている。別の業界に軸足を置きながら、副業として伝統産業に携わる。リモートワークで、遠く離れた地域の伝統産業に携わる。そのような関わり方ができる土壌が十分に耕されたと感じる今、職人たちが生み出すものを愛する一人として、伝統産業への多様な関わり方を提供するクラフトソンが今後も盛り上がることを願っている。

 

・竹浪 祐介 氏(地方独立行政法人京都市産業技術研究所 デザインチーム主席研究員)

 様々な職種の方が「クラフトソン2020」に集い、アイデアを練るだけでなく、収益性までをシビアに捉え、ビジネスモデルを実現させようとするスキルと行動力に終始圧倒された。同時に、作り手側の立場である私が、自ら可能性を拘束していたことに気づかされた。伝統産業や地場産業が、新しいやり方で再興や存続に取り組む世代交代の局面が既に来ていると実感している。クラフトソンが数十年後のゆたかな暮らしに繋がり、クラフトソンから生まれたアイデアやサービスが「伝統の一部」となっていてほしいと願っている。
技術を尽くし、心を込めて作っている物が、はたしてどれほどの人を喜ばせているのだろうか。こういった「孤独」に悩んでいる作り手は少なくない。京都の伝統工芸の将来について、多くの人が真剣に考えている様子は、作り手にとって大変励みになると思う。

 

■ 最終プレゼンテーションに参加した 作り手・投資家・支援者等からのコメント(一部のみ抜粋)

・作り手

○三浦 耀山 氏(土御門仏所・仏師)

 「週末工芸」の仏像作りワークショップの講師として参加し、初めてのオンラインのみでのワークショップに挑戦した。結果として、「週末工芸」スタッフのカメラワークやテキストの補強などのバックアップにより、オンラインのみでも十分ワークショップを行えることがわかった。「週末工芸」のテーマは「作り手と担い手を繋ぐこと」。伝統工芸の場合、基本的に手作りなのでどうしても収益が上げにくく、収益を上げようとすると、商品の単価を上げるか、または作り手の労働時間を増やすかという選択になっていた。映像配信等を活用することで、世界中の「担い手」候補に技術を伝える事によって収益があげられるようになれば、作り手にとっての収益アップの新たな光明になりえると思った。担い手にとっても弟子入りまでしなくても、自宅でプロの技術を会得できる。「週末工芸」はそのきっかけとなる画期的なサービスではないかと期待をしている。

 

○八田 俊 氏 (有限会社昇苑くみひも)

 長年同じものを繰り返し作ることで技術を研鑽してきた工芸だが、その技術は同じものを作るためだけに使われるのではなく、素材や目的が変われば様々な応用を利かせることができ、物を生まれ変わらせることができるのだということを、「ConCra」に協力することを通じて感じた。また、手仕事だからこそ出来る、個人の思いを形にする力が工芸には備わっているという事に改めて気づいた。「シャツ」と「音楽」と「組紐」が結びついてギターストラップが生まれたように、いくつかのキーワードが結びついたとき、本当のアップサイクルとしての役割と、また工芸の技術の新たな用途が見つかる可能性がある事業だと感じた。

 

■支援者

○松浦 広展 氏(五大工業株式会社 代表取締役社長)

 工芸家を支援するためのプロジェクトかと思いきや、我々の日々の生活を豊かにするうえで、実は工芸家という存在が必要不可欠な存在であると、「クラフトソン2020」を通じて知ることができた。それに気づくきっかけをもらっただけでなく、工芸家のみなさんをもっと我々の身近に感じることができる素晴らしい機会でもあった。「週末工芸」は我々の趣味の領域をオンラインで工芸家と共に深めることができる。「ConCra」は「物」を自分のオリジナルにできる =自分の存在を形にできる。「mederu」はオンラインで多くの工芸家と交流しつつ、買い物もできる。これら3つのビジネスモデルはどれも、我々が美や工芸を感じる生活は簡単に実現できると感じさせてくれた。プレゼンテーションに参加でき、とても有意義な時間を過ごせたことに感謝している。

 

■ 総括

 コロナ禍の環境下において、企画と運営のほぼ全てをオンラインやリモートで実施した「クラフトソン2020」は、運営側としても果たして企画が成り立つのか、未来に繋がるような新しいビジネスモデルが生まれるのか、という不安も抱えながらのチャレンジでもあった。しかし、半年ほどに及ぶ実施期間を経て、生まれたビジネスプランそのものの内容についても、運営としてもオンラインならではの新たな手法を創出することができたと考えている。

「伝統工芸から生まれる新たなビジネスモデルの創出」というテーマだけでも、すでに多くのチャレンジが見える企画だが、それに加えて本年度は、参加者、主催者、アドバイザーやメンターのほとんどが、会うことができない、移動を伴う準備がしづらいというさらなる制約があった。しかしその制約があったことで、逆に、参加したクリエイターも、運営側も壁を乗り越えられる新しいアイデアや工夫が多く生まれたのではないかと思う。

2020年8月、「クラフトソン2020」の呼びかけに日本全国から多種多様なクリエイターら28名が集った。最終的に有望な3つのビジネスモデルが生まれ、そこには京都府内の職人が19名(うち京都市内の職人12名)、中小企業7社(うち京都市内5社)が関わった。オンライン・リモートのみで生まれたチームやアイデアから、ここまでのビジネスモデルを創出することができるというひとつの実績と今後への可能性を「クラフトソン2020」は提示できたのではないだろうか。

今回、最終プレゼンテーションに進んだ3つのビジネスモデルの内容を見ても、モノがどのように生み出されるのかの背景や、モノを通して未来に何を期待するのかなど、目に見えない「ストーリー」や「価値」がより重視される時代に移行していっていると明らかになった。ましてやコロナ禍を経たことで、人がモノやサービスに求めるそういった「価値」の重要性は、世界規模でさらに増していくと思われる。

目の前にあるプロダクトやサービスを通して、どのようなストーリーや思い、そして意味を伝えることができるかを開発者はとことん考え、リアルの感性とデジタルやオンラインの技術と利便性を融合することで、伝統工芸の未来を明るく照らす、「伝統工芸・地場産業のこれから」に期待を高めてくれるビジネスモデルを「クラフトソン2020」から生むことができた。また、今後もこの潮流を継続することで、新たなアイデアやビジネスモデルの創出にも期待が高まる。

 

  • 主催

京都NEW MONOZUKURI創出協議会 ※1

KYOTO KOUGEI WEEK実行委員会 ※2

※1 京都NEW MONOZUKURI創出協議会は京都市、京都リサーチパーク株式会社、一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会で構成されています。

※2 KYOTO KOUGEI WEEK実行委員会は、京都府内の伝統工芸・ものづくり関係団体で構成され、京都府が事務局を務めています。

 

  • 企画・運営

一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会

(ワークショップ運営協力:ロフトワーク株式会社)

(会場提供:京都リサーチパーク株式会社、FabCafe Kyoto)