きっかけは新聞に包んだ10gの染料?!田中直染料店 田中直輔さん

2022年9月11日、グランフロント大阪で、京都と関わりたい人や京都への移住希望者と、府内地域で活躍する人との関係づくりを行い、京都府内各地を訪れるきっかけを創出することを目的としたイベント「ALL KYOTO FES」が開催されました。

DESIGN WEEK KYOTO もブース出展し、DWK の OPEN HOUSE にも参加した、京都のモノづくり企業で活躍されている様々なジャンルの5名の方に登壇いただき、どんな仕事を、どんな人が、どのような思いで行っているのかについて語っていただくトークセッションに多くの人が耳を傾けました。

北林:次のトークセッションのゲストは、田中直染料店の田中直輔さんにお越しいただいています。田中直染料店さんは、染める会社ではなくて、染める人たちのための染料を提供し続けているという染料のプロフェッショナル。1733年創業という超老舗です。


田中:田中直染料店の九代目の田中です。弊社は1733年に初代が丹波の亀山藩、今の亀岡から出てまいりまして、最初は丁稚奉公として京都市内でビン付け油の製造販売を営んでおられた山崎屋長兵衛商店というところで働いていました。その後、1733年にのれん分けということで現在の松原烏丸を西に入ったところの本社のある場所で、染草薬草問屋というものを開業しました。
そこから現在9代目の僕まで続いてきたという次第です。今ご紹介いただいたように、我々は染めをする方のための材料提供をさせていただいている会社です。例えば植物染料を使いやすいように液体に加工して販売するとか、社内でも実際は加工を行っていますが、それが最終製品でなく、お客様にお使いいただいて、お客様がそこから最終製品を作っていくという中間商品を製造しているというようなところです。

北林:だから、染料店なんですね。

田中:染料及び材料店です。元々は草木染を扱っていましたが、戦後、合成染料が入ってきてそれも扱うようになったんですけど、他社よりちょっと出遅れてしまったんですね。合成染料を扱ってくれる取引先が見つからない中、私の父親、八代目がどうしよかと思っていたときに、今の京都市立芸術大学の学生さんが染料を分けてほしいということで来られたそうです。よく聞いてみると、他の店では一斤(600g)の単位しか染料を売ってくれない。染料1斤と言えば、一生使えるぐらいの量です。
そこでうちの親父が新聞を四角く切って、そこに10gだけ測って、昔の薬の薬包紙でお渡ししたところ、とても重宝がられて、以来みなさん集まって来られた。求めてもらえるなら、じゃあ10gで販売しようということになりました。当時の学生さんたちが卒業されて地元へ帰って教鞭を取るようになると、「材料はここで買え」と、うちの電話番号を書いてくた。そんなことの繰り返しで小売りが大きくなっていきました。

北林:販売先は、沖縄までありましたもんね。ドイツにも送っておられましたし。

田中:ドイツは北林さんのおかげでつなげていただいて。ドレスデンの美術大学に染料を送ってワークショップをしました。オンラインで私のしゃべってる様子を撮りながら、それを向こうに送った染料でやってみましょう、と。

北林:小量で販売するからこそ、やれることがありますよね。大量にしか売ってなかったら、染めの文化もどうなってたかわからないです。

田中:工業的にしか供給がなかったら、アマチュアの方々にはなかなか行き届かなかったかもしれません。たまたま、うちは工業的な染料を家庭で使えるようにカスタマイズしてご紹介してます。ただ染めるだけではなくて色んな加工ができるという特性もあると思ってます。

北林:今、お店に染料を購入しに来るお客さんはどういう人たちなんですか。

田中:昔からそうなんですけど、学生さんやアマチュアの方、それから染色教室をなさっている方、が6割くらい。もちろん京都の友禅の職人さんとか大手工場などともお取引をいただいてます。

北林:。染めの材料だけじゃなくて、染め全般、染めにまつわる相談に乗ってくださるというお話もよく聞いています。染め自体を楽しむ文化を作っていこうと、教室もされてますよね。

田中:はい、今はコロナで動けないんですけれども、やっぱり我々も、材料だけ販売してては、使い方を分かってもらえず、それでは材料も出ていかないので、まずは使い方をお教えし、その後に買っていただくという順序があると思うんです。そういう体験会や講習会をしてるんですね。オリジナルの染色を楽しんでいただく場をつなげていきたいなぁと。

北林:すごいですね。ほんとに染め材料から染め文化全体をっていうことですね。そして、染めの材料だけでなくて、染めをコントロールする材料も研究開発されてる。

田中:例えば色を抜く薬品とか、色を重ねていくとか色んな技法があるんですけれども、そういったものも手軽に使っていただけるように薬品会開発もしています。

北林:今後の取り組みとか、今後やってみたいことはなんですか?

田中:私は九代目で還暦は過ぎまして、息子が今、工芸で働くというテーマの京都府が開催しているセミナーに参加しています。来年それが修了したら、十代目にバトンを半分渡そうかなと。

北林:半分?

田中:半分。全権はまだ早いかな(笑)。親父と私のときは、親父が82まで全権を持ってたんです。すると、私もなかなかやりたいことができないというのがあったんで、それもどうかなと思って。今、社内の体制も息子中心になりつつあるので、その勢いでそのままいってもいいかなと思っています。ただし、ブレーキかけるとこはブレーキかけていくことも必要で、新しいことばっかりやり始めて、古いことを忘れたらいけないなということです。
何でもそうなんですけど、初めてのことをするって、二の足を踏んでしまう。染色もそうなんです。でも、いざやってみると、できるんやっていう結果が必ずついてきます。

北林:どうしても京都のモノって最終製品に目が行きがちですが、そのクオリティが高いのもそこに行くまでのプロセスをしっかり支えてくださってるプロの方がいるからなんだということを、田中さんの話を聞いていていつも思います。世界中に染めの技法はありますが、田中さんのような形で染めができるところは意外とないみたいです。
世界の染めの中でも、田中さんはレアな存在なんだなということを、海外との交流を通じて知りました。ぜひ十代目そして十一代目とつながっていくように楽しみにしています。ありがとうございました。

田中直染料店さんの染料で染めた布。染料だけでなく、染色にまつわる道具や生地なども取り扱っている。

染色技術を生かして染めた日傘。自分で染めた生地で小物が作れたら、夢のよう。

ゲスト:田中直染料店 田中直輔さん

享保18年(1733年)に京都の烏丸松原で創業以来、280年の歴史を持つ染色材料専門店。現代では当たり前になっている通信販売を、明治時代から日本全国だけでなく、台湾や満州、朝鮮へも展開していたというから驚きだ。藍、柿渋をはじめとした天然染料から合成染料や染色道具まで、染のことなら何でも揃い、どんな染めがしたいのかじっくりヒアリング(診断)した上で、最適な染料を提案(処方)してくれる様子は、まるで染料のお医者さん!

聞き手:北林 功(DWKファウンダー)

COS KYOTO(株) 代表取締役/コーディネーター
(一社)Design Week Kyoto実行委員会 代表理事
2010年、同志社大学大学院ビジネス研究科に入り、「伝統産業グローバル革新塾」に学び、現事業のベースとなる「文化ビジネスコーディネート」のプランを構築する。2013年、COS KYOTO株式会社を設立。国内外への販路開拓や商品開発、戦略構築、PRサポート、交流イベントの開催や人材育成など、地場産業をグローバルな「文化ビジネス」とし、世界を楽しくするためのコーディネートを手がけている。

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