DWK2020 OFFICIAL TOUR courseA

DESIGN WEEK KYOTO(以下、DWK)のオフィシャルファクトリーツアー。DWKの期間中、DWKのスタッフが工房・工場をご案内。効率的に回ることができるだけでなく、各工房の見どころやDWKの運営にまつわるあれこれなども知ることができるのがツアーの醍醐味です。2月23日(土)に開催した、「オフシャルツアー コースA」には、地元京都の大学教授と教え子の学生や、趣味で染めを楽しまれている方、普段の仕事とはまったく違う業種のモノづくりをみたいという方など、多種多様な8名が参加した。

text:北林佳奈  Kana KITABAYASHI

サマリー

  • 1.DWKのオープンファクトリーは多種多様なものづくりの現場を見ることができる
  • 2.モノづくりの現場や背景を知ると、モノの見え方が変わる
  • 3.人と人との交流から新しいアイデアが生まれる

DWKのオープンファクトリーは多種多様なものづくりの現場を見ることができる

DWKの特徴の一つは、多種多様な業種の工房を見て回ることができるということ。京都には工芸だけでなく、金属加工、ハイテク産業など実に様々なモノづくりの現場が存在する。もともと興味を持っていた業種のモノづくりを更に深く知ることはもちろん、それまであまり知らなかった業種のモノづくり現場を訪問することによって、思わぬ発見や気付きをもらうことも醍醐味のひとつ。今回のオフィシャルツアーで訪問したのは多彩な4つの工房だ。

1.蘇嶐窯(陶磁器)
2. 田中直染料店(染料)
3.北川商店(京ふとん)
4. 佐藤喜代松商店(漆)

1.蘇嶐窯 -伝統技術を培った夫婦が生み出す独特の京焼-

まず最初に訪れたのは、陶磁器の工房、蘇嶐窯さん。京都の清水焼の窯元に生まれた4代目の蘇嶐さんと、福岡の小石原焼の窯元に生まれたまどかさんが、二人で営む工房だ。清水焼の青磁の技術と、小石原焼の飛び鉋(とびがんな)技術を掛け合わせて生み出されるとても美しい器たち。
今回はそれぞれの工程を実演を交えながら、ご説明いただいた。
見どころは、蘇嶐さんとまどかさんのろくろを回すスタイルの違い。蘇嶐さんは床にあぐらで座り、ろくろの回転は時計回り、まどかさんは椅子に座り、ろくろの回転は反時計回り。
これは京都には主に中国から、福岡には朝鮮から焼き物の技術が伝わってきたから。
同じ焼き物でも地域が異なればこんなにも違い、その2つの技術が結婚を機に融合することで、新しいタイプの器が生まれたという背景が非常に興味深かった。

2.田中直染料店 -日本の染色文化を支える染色材料のプロフェッショナル-

次に訪れたのは、染色材料を販売する田中直染料店さん。創業280年という老舗だ。
「失敗しない染め」をテーマに、安定的に染めることができる染料を研究・開発し、大学や一般の方にも使いやすいよう小ロットで販売している。

「染めは化学そのもの」であり、色を定着させるには金属成分などの働きが重要になってくるということだ。
今回のツアーでは染料を製造している工房の見学と、実際に染料を使って布を染めるデモンストレーションを見せていただいた。
白い布を茶褐色の染料に浸けただけなのに瞬く間に黒い布に染まっていく様子は、まるで手品を見ているようだった。

天然染料や各種染めの道具がずらりと並ぶショップも見応えたっぷりだった。

午前中のプログラムはこれで終了。
京都御苑のすぐ近くにある「タイム堂」さんでランチタイム。今回のツアー参加者同士で午前中に見た2つの工房で感じたことなどに花を咲かせながらランチを楽しんだ。こういった初めて会った参加者同士での交流が楽しめるのもツアーの楽しみだ。

3. 北川商店 -夢心地を与える京ふとん-

次に訪れた工房は、北川商店さん。
真綿(まわた)というシルクの綿を使って、お布団やお座布団をつくっている。
ショッピングセンターなどで安価で手軽に購入できる市販の布団とはまったく異なる手法でひと工程ひと工程ずつ職人の手により生み出される。

北川さんが説明してくださった「真綿とその他の綿との違い」や蚕(かいこ)のことを非常にわかりやすく身振り手振りやクイズも交えて説明いただき、理解が深まった。
布団づくりの工程を一通り見学した後は、実際に真綿の手引き体験を行った。二人一組で真綿を手引いていくのだが、すーっと伸びていくふわっと軽くてほんのり温かい真綿の魅力を存分に体感することができた。

4.佐藤喜代松商店 - 漆の可能性を広げ続ける漆スペシャリスト-

ツアー最後の工房は佐藤喜代松商店さん。
「最強の天然塗料」である「漆」の可能性をとことん追求し続けている工房。

木から採取される漆がどのようにできるかといった工程や熱や酸・アルカリにも強いという漆の特徴や様々な分野で使われている漆の事例についてレクチャーを受けた後、漆の精製を行う工房の見学を行った。
漆器や蒔絵などの工芸の分野はもちろん、スクリーン製版資材や捺染紙などの染色用途、更には漁業や農業、精密機械といった先端分野に至るまで実は漆が使われており、その幅の広さに参加者一同驚いていた。

モノづくりの現場や背景を知ると、モノの見え方が変わる

ツアー参加者のコメントで印象的だったのが
「普段ECサイトを通じて田中直染料店さんの染料を購入しており、価格が高いなと感じていたが、実際に工房に来てその工程を見ると納得できた」
という言葉。
現代の私たちの暮らしは、作り手の顔が見えにくいもので溢れている。しかし、そのモノづくりに関わっている人や、その工程・背景を知れば、そのモノに対する印象や見え方が変わることを改めて実感することができた。

人と人との交流から生まれる新しいアイデア

またツアー参加者からは
「これだけ色々な工房があるなら、いくつかの工房を回りながら何か一つモノをつくりあげていく、そんなツアーがあったらおもしろいですね」
という提案をいただいた。
例えば、製材所へ行って木を削り、漆工房へ行って漆を施してお箸を仕上げ、陶磁器の工房で箸置きをつくるといったような内容だ。

まさに多種多様な工房・工場が参加するDWKだからこそ実現できる企画。こうした、人が関わることで生まれる新しいアイデアや視点こそ、イノベーションを起こすきっかけになると私たちは考えており、このようなアイデアを出し合い、実現していきたい。

今回は、1日で4つの工房を回るツアーだったが、モノづくりの現場は本当におもしろく、2度3度と訪れても常に新しい気付きや発見がある。
京都にはまだ知らない、モノづくりの現場がたくさんある。次回の「DESIGN WEEK KYOTO 2021」で、また新たな出会いと交流、そしてアイデアが生まれるのが非常に楽しみだ。